UI設計の文脈から「悲劇的なデザイン」を読んだら、すっかりアクセシビリティのことが気になってしまい、7/20のJAC( Japan Accessibility Conference - digital information vol.2 に参加してきたよ - hiromitsuuuuu.log(); )以降もせっせと興味の赴くままに関連本を読み漁ったのでまとめておく。(とくにこれといって最近アクセシビリティのお仕事をはじめたわけではないです。これってわたしに関係のない話じゃなくて、そのままデザインの話じゃね?と思って教養の一部として読んでいる感じです。)
実装よりも先に、なぜ?どんなひとに?が気になったので、概念や考え方、背景寄りの本が多め。
読んだ本
悲劇的なデザイン
悲劇的なデザイン ―あなたのデザインが誰かを傷つけたかもしれないと考えたことはありますか?
- 作者: ジョナサン・シャリアート,シンシア・サヴァール・ソシエ,高崎拓哉
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2017/12/27
- メディア: 単行本
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デザインの影響で人が亡くなった事例からダークパターン、アクセシビリティまで倫理観に富んだ良き本。デザインは人を殺し、怒りを煽り、悲しみを呼び、疎外感を与えてしまう可能性のあるもの。メモしておきたい名文がたくさん出てくる。「お化粧」なんかじゃなく、これほどにもデザインには影響があるのだということがわかる。デザインが軽視され優先順の低いプロダクトは失敗すること、その問題のひとつに組織構造があることにも言及されており「エンジニアリング組織論への招待」でも紹介されているコンウェイの法則を思い出させる。以下、本文の引用ツイートなど。
「デザインは人間とテクノロジーの橋渡しをするためのもので、橋がどれだけ渡りやすいかは、私たちデザイナーにかかっている」
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月14日
『インターネットの構築は、街の都市計画と同じくらい大切なものになっている。体に障害のある人が暮らしにくい街を作らない(少なくとも作ってはいけない)のと同じで、一部の人しか入れないウェブも作ってはいけない。』
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月14日
めちゃくちゃよい。
『テクノロジーに目的はない。人間の行動はどれもある意味でテクノロジーだ。肝心なのはテクノロジーにどんな方向性を与えるか。テクノロジーの本質はツールだ。』
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月14日
「悲劇的なデザイン」読了した!デザインの影響で人が亡くなった事例からダークパターン、アクセシビリティまで倫理観に富んだ良き本だったー! pic.twitter.com/Cw5iJzLY6W
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月14日
ミスマッチ
ミスマッチ 見えないユーザーを排除しない「インクルーシブ」なデザインへ
- 作者: キャット・ホームズ,ジョン・マエダ,大野千鶴
- 出版社/メーカー: ビー・エヌ・エヌ新社
- 発売日: 2019/03/15
- メディア: 単行本
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最近読んだデザイン系の本で一二を争うよかった本。かつて、私の先輩は「デザインは人間力だ」と言っていた。誰かのためを思って創り出したものが、誰かを排除してしまうかもしれない。排除とそれに伴う社会的な拒絶、自分の居場所がないときの気持ち。そこまで考えてしくみを作っているか?『デザイン次第で、私たちが世界にアクセスし、参加し、貢献できるかどうかが決まるのだ』しくみをつくることが排除を産むとはどういうことか、デザインすることの影響について考えさせられる本。
テクノロジーが生活のあらゆる領域に入り込むにつれて、排除がさらに蔓延する恐れがある。というのは、かつて人対人だった交流は、今や機械によってファシリテートされているからだ。テクノロジーを取り入れた人間の交流はすべて予測がつかない。テクノロジーが拒絶するのは誰で、受け入れるのは誰なのか?
『排除としばしばそれに伴う社会的な拒絶は、だれしもに共通する体験だ。自分の居場所がないときの気持ちを、私たちはみな知っている。』
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月4日
仕組みをつくるということは、同時に排除と向き合うということ、なのだな🤔
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月4日
世界はしくみで溢れている。プロダクトやインターフェースにかかわらず、サービスも、法律も、組織も、「しくみ」。だれに向けるかを決めた時点で、だれが排除されるかが決まる。「しくみ」をつくるひとは、もしかしたら無邪気に誰かを排除しているかもしれないのね。。。
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月4日
障害者の経済学
- 作者: 中島隆信
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2018/04/13
- メディア: 単行本
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JACをうろついていたら、Rikiya Ihara (@magi1125) | Twitter さんがお勧めしてくれた本。障害者問題が経済学の観点から論考されている。家庭環境や教育、法律、障害者施設から働き方改革まで様々な側面から論じられている。「障害」は個人の心身機能に何かしら欠損があること(医学モデル)ではなく、社会の変化が障害を作り出しているという「障害の社会モデル」の考えに基づいて書かれている。
差別の分類についても解説されており、商学部における男女別専任教員数の統計を例に挙げて、商業系は男性の得意分野で語学/人文系は女性に向いていると言えるのかといった社会環境がもたらす性差の話も出てきて、思ったよりも自分ごとにして読みやすかった。
個人的には後半、働き方改革の視点が面白かった。障害を感じていなくても個々人の能力が活かせる世の中になればいいなと思う、、、!
日本のこれまでの”働き方”は、企業にとって人事のコストを最小化する目的で設定されてきたと考えられる。すなわち、オールラウンドプレーヤーを新卒で採用し、さまざまな仕事を経験させながら企業にとって都合のいい人材を選び育てていくというやり方である。そして、そうした”働き方”についていけない人は脱落していく。言ってみれば、人間の方が企業の提示する画一的な”働き方”に合わせなければならなかったのだ。
後半のほうが面白いのを付箋が物語っている。『私たちの社会には、他人と比べて能力的に劣っている人を不適格者として排除する傾向がある。職場でも、どんなこともうまくこなせるオールラウンドプレーヤーを求めがちである。だが、それは全体で見たとき最適ではない。』 pic.twitter.com/I79U8uOS6f
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月30日
まっくらな中での対話
- 作者: 茂木健一郎 with ダイアログ・イン・ザ・ダーク
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/01/14
- メディア: 文庫
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過去DIALOG IN THE DARKに行ったことを思い出し( やさしいくらやみ - hiromitsuuuuu.log(); )、脳科学者の茂木さんにによるDIALOG IN THE DARKの対談本を読んだ。DIALOG IN THE DARKの代表理事の志村季世恵さんと、アテンドの方々と話されている。冒頭で、DIDは「視覚を使う文化」と「視覚を使わない文化」という二つの異なる文化の対話と紹介されており、はっとさせられる。海に行った時に砂浜でどんなものを探す?ファッションってどうしてるの?人を好きになる時って?文化交流みたいな対談。
海に行って、砂浜で綺麗なガラスを拾う一方でとってもすべすべつるつるの触り心地の石を拾う話すき。気づかないことに気づけて見えないものが見えてる感じする。
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月27日
DIALOG IN THE DARK ー暗闇の中の対話ー みるということ
DIALOG IN THE DARK ー暗闇の中の対話ー みるというこ
- 作者: ダイアログ・イン・ザ・ダーク
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2015/12/22
- メディア: 単行本
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DID関連本2冊目。こちらは運営者側ではなく、体験者や企業の声が入っている本。一回体験してから読むと、そうそう!同じ感覚を感じたよ!という気持ちになれる。
アテンドとして、立ち位置を変化させ続ける中で、わかったことがあります。健常者が優位で、障がい者が劣等なのではなく、互いが持っている強みが違うということ。そしてマジョリティとマイノリティはその場の状況や環境で変わることです。
ダイアログに行って買ったこれ読んでる。JACで聞いた触覚の鋭さを活かして開発した今治タオルの話が載ってる!触ってみたいー!> DIALOG IN THE DARK ー暗闇の中の対話ー みるというこ https://t.co/8xr36pyCmG #Amazon
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) August 12, 2019
みえるとかみえないとか
- 作者: ヨシタケシンスケ,伊藤亜紗
- 出版社/メーカー: アリス館
- 発売日: 2018/07/12
- メディア: ハードカバー
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やさしく「ちがい」について考えさせられる本。宇宙飛行士の主人公が、いろんな星の住人に出会って「ちがい」を見つけ、どの星でも「めずらしいからだ」になってしまい、その星での障害を感じていく。その人に障害があるのではなく、社会によって障害が作り出されているというのを理解することができる。
「悲劇的なデザイン」からはじまり、最近の興味がアクセシビリティに偏ってきて興味のままに本を読んでいるのだけど、この絵本が面白かった!「おなじところを さがしながら ちがうところを おたがいに おもしろがればいいんだね。」違う文化をなにそれすごい!おもしろいね!って尊重する姿勢が学べる pic.twitter.com/W4b7ZTuA6p
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月29日
目の見えない人は世界をどう見ているのか
- 作者: 伊藤亜紗
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2015/04/16
- メディア: 新書
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↑で紹介した「みえるとかみえないとか」の元になった本。著者は生物学者を目指していた生物オタクで、視覚障害者への理解へのモチベーションが「変身」願望というだけでも視点がめちゃくちゃ面白い。本の中では、世界の捉え方がどのように違うかを解説されている。視覚を使う限り、視点というものが存在し、平面イメージで捉え死角が発生してしまうのに対し、視覚を使えない場合は立体で捉えて特定の視点にとらわれない、など。身近にある別世界という感じで、とても面白い。少数派民族の文化をリサーチしに海外に行かなくたって、すぐそこに、違う文化を形成した人たちの世界がある!
アクセシビリティに対する興味が高まった結果、引き続き教養として『目の見えない人は世界をどう見ているのか』を読んでいる。この本めちゃくちゃ面白いんだけど!?!?ふせんがだいぶ消費された。界隈では有名な本なのかな? > https://t.co/c7R4k2kHr4 #Amazon pic.twitter.com/XPC26vVrvT
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年9月6日
インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
インクルーシブデザイン: 社会の課題を解決する参加型デザイン
- 作者: ジュリアカセム,平井康之,塩瀬隆之,森下静香,水野大二郎,小島清樹,荒井利春,岡崎智美,梅田亜由美,小池禎,田邊友香,木下洋二郎,家成俊勝,桑原あきら
- 出版社/メーカー: 学芸出版社
- 発売日: 2014/04/01
- メディア: 単行本
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ちょうど興味が高まってきた頃 Hitomi Yamagishi (@yamagishihitomi) | Twitter さんのブログが流れてきて読み始めた。
ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインがどう違うか、どういう背景で生まれたか、排除にはどんな種類があるか、からデザイン事例までを知ることができる。個人的におっと思ったのは、『日本企業の業務の縦割り構造や分社化が、新しいイノベーションを起こしにくくしているという印象を持っている』『組織とプロセスの制度的な障がい、マネジメントの課題は(〜中略〜)解決すべき本質的な社会課題について考える機会を奪っていると感じている』と組織の話まで発展していたこと。
わたしのなかでインクルーシブデザインブームがきてるので読もうかなと著者を見たら、平井先生...!? ん!? 先輩の研究!? ( ゚д゚) となってる。。。10年経って気づくなんて😇https://t.co/Gz29nUnDqk pic.twitter.com/XreeTzgDzS
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) September 23, 2019
『技術者やデザイナーは、「そこにあるべきもの」に形や機能を与えるために専門知識や経験を導入すべきであり、ユーザーの経験を代弁するために専門的な知識や技術を用いるべきではない。』
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年9月23日
(ちょっと番外編) いのちのバトン
- 作者: 志村季世恵
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2009/07/15
- メディア: 文庫
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DIALOG IN THE DARK の代表理事の志村季世恵さんの本。DIDに出会う前は、薬剤師の旦那さんと漢方薬局&整体の治療院「癒しの森」でセラピストとして末期ガンや妊婦さんのセラピーに関わっていた。どんな経験をされてきたのか、どんな考えを持たれているのかを知れる本。DIDに関わることは詳しく聞かず二つ返事で承諾されたとのことだけど、こういう考えの方が、ひかりとくやらみの世界がたちまち逆転してしまう世界のエンターテインメントに関わられていることに納得がいく。
重い病気の方がよく持つ悩みの中に「もうこんな自分だから誰の役にも立てない。迷惑をかけるだけ」というものがあります。
〜中略〜 役に立っていない人なんて、この世に存在していません。地球の営み、仕組みを考えても、自然から発生したものはすべてが必要なものです。
眠れなくて、ダイアログ・イン・ザ・ダークの代表理事の志村季世恵さんの本を読んだ。「いのちのバトン」読了、つぎは「さよならの先」。ターミナルケアとしてのセラピー、同じ事実に向かう意味づけを変えていってひとが強くしなやかに終わりに向き合えるの、意味の世界に生きている感じある pic.twitter.com/cAmx5yD1zX
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年9月22日
(おまけ)知るために観たもの/体験したもの
ダイアログ・イン・サイレンス
ダイアログ・イン・ザ・ダークは、ひかりのない世界。サイレンスは、おとのない世界。DIDの本を読むうちにおとのない世界のことも知りたくなって行ってきた。
ダイアログ・イン・サイレンスにきた!どきどきどき... pic.twitter.com/nCdlkheLEP
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月10日
ダイアログ・イン・サイレンスのレポート描いたよ!(ネタバレ注意) 日頃、いかに自分が「みて」いないかを実感する90分でした。相手の顔や一挙一動に目を凝らして、自分も表現することにハードルがなくなってゆく90分。子供の頃に戻ったような楽しさがあります。手話表現って楽しいかもしれない。 pic.twitter.com/dbwFRU13TA
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年8月17日
ナイトクルージング
全盲の映画監督が映画を作ったら...というドキュメンタリー映画。JACのあとにタイムライン上で話題になっていたので観てきた。
ダイアログのときにも思ったけど、『観る』ってなんだっけ、、と思わされる。同じ世界に住みながら、違う知覚で世界を認識している。パラレルワールドみたいで、その間が映像で繋がったような感じ。
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月27日
佐々木監督が言った「ごめん、高速に読み上げられる音声を、聞き取れる能力がないんだ」といったのが印象的だったな。
— 生贄の子羊ひろみつ (@hiromitsuuuuu) 2019年7月27日
ここまでで主に分かったこと
- 障害という言葉には、その人自身の心身に何かしら欠損があるという「医学モデル」と、社会に存在する課題を障害とする「社会モデル」がある
- 「視覚を使う文化」と「視覚を使わない文化」の文化の違いとして捉えられる
- 「視覚を使わない文化」のひとは、世界を立体的にとらえている
- しくみをつくるということは、何かしらの排除と向き合うこと
- インクルーシブデザインでは、リードユーザーから得た示唆を中心に、他のユーザーも使えるよう範囲を広げていく考え方をする
一連の本読みで、インクルーシブデザインの考えかたがとても好きになってしまった!し、自分とは違う文化を知りたくなった!
これから読みたい本
いまだ読みたい本が残っている。まず、アクセシビリティの実装系の本(これまでそんな案件も無かったので実装知識は皆無...)と、志村季世恵さんの「いのちのバトン」のあとに出たエッセイ集と、インクルーシブデザイン本の中で言及されていたスペキュラティブデザイン。何冊読んでも芋づる式に読みたい本が増えていく。。。(けど、これも読んどけっていう本があったら読みたい |・`ω・)←欲しがり